風立ちぬ

ジブリ映画。
とても悲しく、そして見応えのある映画だった。
大体にして、第二次大戦、ゼロ戦の話というだけで、
ハッピーエンドにはなりえない。しかも西欧列強の進んだ工業技術を目の当たりにし、それを超える飛行機を開発し、戦争に勝つなど、まさに奇跡が起こる以外ありえないことだと、本人たちは一番よく分かっていたはず。

そういった中、空に憧れ、飛行機を開発する。
その素直な気持ちを大切に、夢をかなえていくことの描写に心打たれた。
純粋なものづくりの話、とはいえ、きれいごとだけでは終わらない。
その飛行機は爆弾を積み、人を殺すために作られる。
自分がいいと思えるものではなく、クライアントである空軍の依頼に応えるために作られる。
非常に厳しい現実の中で、いつかたくさんのお客さんを乗せて、楽しく飛ぶ飛行機を夢見ている。

それは夢。夢でしかない。この映画の中では、そんな夢の描かれ方が心地よい。現実は重く苦しい。しかし、夢の中では、もう一人の自分が未来を、世界を明るいものに描いている。それは映画自体を、暗く重たい話から解放する力にもなっている。

そして、恋のエピソード。
これもまた悲しい。明るい未来がない、という社会環境と全く同じ運命の中、今を大切に生きることを選ぶ二人。長期的に良くなることを優先し、こうすべき、を大事にするのではなく、何よりも“今の自分たち”を大事にすること。結核に苦しむ妻の隣でタバコを吸うシーンなどはそれを象徴している。

将来に明るい未来が描きにくい環境の中、どう生きていくか。
その一つの指針を、この映画は描いていた。

音楽も、基本的には同じ曲を、楽器やアレンジを変えながら、何度も聞かせていく。映画の進行を、とても印象的に、そして魅力的に引き込んでいく。

この映画は、全てを今の自分たちの生活に置き換えることができる。
社会に不満を持ち、自分の力だけではどうしようもないことが多い中、どう生きていくか、その覚悟の持ち方を、と強く考えさせられた映画であった。