楽園のカンヴァス

原田マハの、直木賞候補となった本作。結局受賞は逃したものの、評判はすこぶる良く、受賞作品よりも評価する声も聞こえた。

実は、原田マハの小説は、過去に読んだ一冊の影響で、それほど好きではない、という印象だった。主人公の感情描写が、少し暑苦しいというか独りよがりというか、好きなものを押し付けられる印象があった。

しかしこの、楽園のカンヴァスはそんな先入観を覆すほどの面白さであった。さすがに、美術に造詣の深い作者。リアルとフィクションの境目で、うまく話に引き込んでいってくれる。

登場人物はそれ程多くない。ただ、その場にいない登場人物の描写が優れていて、一人の人間それぞれの背景や状況が分かりやすく、感情移入しやすい。つまり、読みやすい。

アートビジネスの怪しさと、アートにまつわる情熱がうまく盛り込まれていて、題材となっている絵画や作家への興味が湧いてくる。

へー、とふむふむ、とワクワク、とそうきたか!が楽しめる、とてもいい小説でした。その時代に生きたかった、ということにとても共感。あぁ、ヨーロッパ、行きたいなぁ。