キネマの神様

読んでて恥ずかしくなるくらい、話がうまく進み、涙腺に拳をぶち込んでくる。正直、ズルい。なかなかここまで正面から攻めてこられることはあまりない。そのある意味での愚直さが、悔しくもある。

名作の映画は今でも名作で、その価値観をくすぐる、作中にでてくる実際の映画。あぁ、映画、観たいな、という気にさせられる。

また、映画好きなら誰しも、誰かと自分の好きな映画について語りたくなる、その気持ちを刺激するネット上でのバトル。こういったやり取りが、どこかうらやましくもある。しかし、これはジャブに過ぎない。

根幹に流れているのは、誰かに認めてもらいたい、という人間の基本的な欲求だ。主人公は仕事で失敗し、自信を失う。父は元来の浪費癖と病気。上司も事業の低迷で先が見えない。それぞれの登場人物が持つ困難に対し、自分たちの好きなものが、世の中に認められ、自信を取り戻していく。
このシンプルなサクセスストーリーが、フィニッシュブローとなり涙腺がノックアウトされる。

そのあざとさ、てらいのなさ、恥ずかしげのないお涙頂戴の殴り合いに、あっさり自分は負けてしまった。ま、本を読む時くらい、ノーガードで臨み、気持ち良く泣き腫らすのもいいものか。そう、この本でも、映画は一人で観るものだ、と書いてあったように。周りを気にしても仕方ない。