チェコのナチス HHhH

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この奇妙な名前の本は、海外で大絶賛を受けた第二次大戦中のチェコを舞台にした、ナチスドイツに関する作品である。特に、ユダヤ人最終計画に大きな影響を与えたハイドリヒを中心に構成されている。

では、この本はノンフィクションのジャーナルなのか? それとも歴史物の小説なのか? この本が一体何なのか、それがこの本の一番面白いところであり、評価されているところである。

この本は、ハイドリヒとプラハの歴史に について著者が調べ、まとめ、書籍にまとめていく様子が随所に書かれている。新たな資料を見つけ興奮する様子や、他の歴史研究家や小説家がまとめた資料を批評したり、事実に対して考察したり、著者がどういう気分でナチスドイツの歴史に向き合っているのかが非常によく分かり、また小説のテンポの良さにもつながっている。

歴史は事実だ。

しかしながらその事実をどう伝えていくか、そこに書き手の力量と視点がある。この本も短い話ではない。しかしながら、きっちりと読ませてくれる。

後半の3人の闘士たちの、時代を変えようとする話は、それだけで一流のスパイ小説だ。事実だから、願うような結末ではない。それがまた、リアリティを持った力強さとして、読み手に突き付けてくる。随分と引き込まれた。

膨大な資料に裏付けられて、色々な視点で描かれる、期待以上の作品であった。また、この歴史に魅せられて没頭していく著者の姿に、どこかナチスドイツ最大の特徴である狂気を感じさせられる。


なお、作中でも明らかにされているが、著者は歴史に没頭はしていくが、ナチス信奉者ではなくむしろ、強く憤りを持っている、という点は強調しておく。