キネマの神様

読んでて恥ずかしくなるくらい、話がうまく進み、涙腺に拳をぶち込んでくる。正直、ズルい。なかなかここまで正面から攻めてこられることはあまりない。そのある意味での愚直さが、悔しくもある。

名作の映画は今でも名作で、その価値観をくすぐる、作中にでてくる実際の映画。あぁ、映画、観たいな、という気にさせられる。

また、映画好きなら誰しも、誰かと自分の好きな映画について語りたくなる、その気持ちを刺激するネット上でのバトル。こういったやり取りが、どこかうらやましくもある。しかし、これはジャブに過ぎない。

根幹に流れているのは、誰かに認めてもらいたい、という人間の基本的な欲求だ。主人公は仕事で失敗し、自信を失う。父は元来の浪費癖と病気。上司も事業の低迷で先が見えない。それぞれの登場人物が持つ困難に対し、自分たちの好きなものが、世の中に認められ、自信を取り戻していく。
このシンプルなサクセスストーリーが、フィニッシュブローとなり涙腺がノックアウトされる。

そのあざとさ、てらいのなさ、恥ずかしげのないお涙頂戴の殴り合いに、あっさり自分は負けてしまった。ま、本を読む時くらい、ノーガードで臨み、気持ち良く泣き腫らすのもいいものか。そう、この本でも、映画は一人で観るものだ、と書いてあったように。周りを気にしても仕方ない。

キックアス

結構残酷なのに、そう感じさせないコミック感が、とにかく楽しい映画。銃で撃たれたり、ナイフで切られたり、と殺しのシーンもしっかり見せているのに、なぜか惨たらしくない。

ヒットガールなるやたらと強い女の子も漫画的でありつつ、ダメダメ主人公が最後はきっちり活躍するところも爽快そのもの。

ヒロインとのお色気シーンもしっかり盛り込まれ、アメリカ映画を見たー、と満足させられた。

人が死ぬ映画はあまり好きではない奥さんも、なぜかこの映画は見られたようで良かった。

主演の男性も小さかったヒットガールも、成長してイケメンイケ女になってる模様。続編もまた借りようっと。


ブルー2

ブラジルが舞台のインコ映画。
ブルー前作がなかなか楽しかったので期待していた。劇場公開が無かったので心配だったものの、無事にDVD化。珍しく新作のまま借りることとなった。

舞台は変わらずブラジルのリオ。前回は市街地だったが、今回はジャングル。開発に対する動物視点での反対姿勢がストーリーとなる。

映画を観ていて、いつかはジャングルに行って、アマゾンの大自然を見てみたいと思うようになったものの、そうやって入り込んでいくこと自体、自然にとっては迷惑なのかなぁ、なんて思ったり。自分は大丈夫、なんて思っても所詮、それも人間のエゴなんだろうな。

でも、行きたいなぁ。
どういう形なら、彼らの迷惑にならずに中に入れるのか。もう少し研究が必要だ。

凶悪

映画化もされたドキュメンタリーの名著。ジャーナリストが社会を動かす、そのダイナミズムを感じられた。
そして、世の中は小説よりも正義が弱いもので、完全犯罪は作れるものなのかもしれないと思わされた。実際は証拠がかなり必要とされるし、警察も動くまでに時間と手間がかかる。

この本は事実だ。だからこそ、もどかしくもあり、歯痒くもある。一ジャーナリストという立場で、ここまでの取材を行った筆者には感服させられる。

世の中は、ほんとに凶悪なやつばかりなのかもしれない。甘い言葉に耳を貸さず、自律をしっかりしないと、明日は我が身だ。今の生活を大切にしよう。

シンプルに考える

いつも大変お世話になっているLINEの、元社長が書いた啓発本?なのかな。

大事なことは、
 ユーザーにとって価値あることを
 できるだけシンプルに
 スピードと質を高めていく
ということ。

新しいことを始めることに価値を見出し、それを運用していくことにはあまり興味がなさそうな印象。LINEが人気になり、ここまでインフラとなった今、社長を辞めて、また新しいことを始めた、という気持ちがよく分かる。

個人的に、何か役に立ちそうだと感じるものはなかった。ただ、ユーザーのため、を大切にする、当たり前のことの大切さは、大事にしないといけないな。

モサドファイル

読みたかったイスラエルモサドに関するドキュメンタリー。世界最強の集団と呼ばれる所以を、存分に味わいたかった。

国家としてのイスラエルの歴史は案外浅い。第二次大戦後に建国しているから、まだ70年くらい。70年の歴史は、ほぼモサドの歴史と重なる。歴代のモサド長官のエピソードを中心に、過去の作戦を紹介。さながらスパイ小説を読んでいるかのような気分になる。

いとも簡単に身分を偽り、スパイ工作を行っていく。これは本当に現実の話なのだろうか。あまりによくできていて、フィクションなのかと思い込んでしまう。時々、アサド将軍、ビン・ラディンなど、ニュースで知った名前が出てくるのが生々しい。

当然、うまくいった作戦ばかりが紹介されていて、ドキュメンタリーだから、割と淡々と話が進んでいく。もしこれが小説なら、少し物足りなく感じるだろう。でもこれは小説ではない。それを忘れずに読む必要がある。

中東の世界は常に揉めている。日本にいると、戦後は本当に平和で、戦火なんて歴史の中でしかないけれど、ここにはまだすぐ隣に火種が潜んでいる。一瞬たりとも気が抜けない状況が見て取れた。

また、ユダヤ人社会とイスラエルの国家は、一枚岩なのかと思いつつ、案外そうでもなかったりする、実情も知ることができた。発見は多い。

現実のスパイに興味がある、中東情勢に関心がある、現代の戦争に考えのある人にお勧めしたい一冊だ。


オデッサファイル

ナチスの残党を追いかけるサスペンス映画。第二次大戦後、ドイツ国内で大戦がどのような扱われてきたのか、垣間見れる秀作だ。

名や顔を変え、悪びれることなく生活し、どこかの機会でユダヤ人への復讐を果たそうとするかつてのナチス。日本にいると、なかなか知ることのできない歴史でもある。

なぜ、一介のジャーナリストがある男への復讐に命を賭けるのか。それは終盤明らかになるのだが、主人公の葛藤を描くのに効果的なエピソードとなる。

また、宿敵の描き方は政治的な狙いなのか、とにかく情けない。主人公自身も、こんなやつのために、、、と呟くのだが、それは、後世この映画を見た人が、ナチスへのヒロイズムを感じないように、憧れの対象にしないために、あえてそうしたのかな、とも感じた。

あと、冒頭のイスラエルとエジプトとの話は日本人には分かりにくいかもしれない。全てモサドの狙いでもあったところでもある、という伏線はもう少し説明した方が、話として分かりやすいのかとも思った。

戦後の中東情勢は非常に複雑で、また様々な思惑が絡み合うところでもあるので、はっきりとは言えないのかもしれないが、ちょっとだけ勿体無い。

しかしながら、手に汗握るサスペンス映画として、強くお勧めしたい一本だ。