謎の独立国家ソマリランド

大好きで尊敬する作家の高村薫さんのオススメになっていたドキュメンタリー、謎の独立国家ソマリランドを購入。

リアル北斗の拳と呼ばれるソマリアに潜入し、ソマリランド、プントランド、そして南部ソマリアへと向かい、その地域の違いや歴史的な背景などを紹介。
ソマリアになんの知識もないまま読んだが、分かりやすく、また面白く読んだ。筆者の高野氏と共に行動し、勉強しているかのような気持ちになりながらソマリランドへバーチャルトリップしているような気になる。

ソマリランドをやや褒めすぎで、誰も知らないことを自分が明らかにしていく、誰も知らない楽園のメンバーになっていくというちょっとした優越感がラストに向けて感じられ、そこが読み手としては鼻についたが、それでも今まで知らなかったことがどんどん明らかになっていく感じは痛快だ。

なぜ国際社会がソマリアを平定できないか、なぜ21世紀に海賊が跋扈しているのか、様々なことがストンと分かる。筆者とともに冒険しているかのような気持ちにさせられる。

この高度情報化社会に、ここまで知らなかった世界があること、押し付けられたシステムではなく、自ら社会を作っていくダイナミズムはとても読み応えがある。読んで良かった。

悲しき人間の性

今夜、すべてのバーで

大変失礼ながら、読むまで、この本は昭和のバブルのイメージがあった。勝手な先入観で、トレンディドラマのような話なのかと誤解していた。

とんだ誤解で、入院中の話だったとは! 意表を突かれつつ、面白く読んだ。この話の良いところは、登場人物全員が、人それぞれの優しさや希望を持っていること。アル中で入院、人も死んだりする話であるが、どこか人の優しさに触れたような読後感に包まれる。

実体験に基づく具体的な薬物の名前なんかが、リアリティを持って読ませてくる。

最後のシーン、病院を出てバーに行くシーンはあまりにあっさりしすぎかとも思ったが、人の優しさで人は変われるという、まさかの綺麗事で締められた。綺麗事をサラリとやってのける強さが、どこか羨ましくもあった。



クマは怖い

羆嵐   吉村昭


獣害史上最悪の事件として名高い、三毛別羆事件。本小説は、その史実に基づくドキュメンタリーでありながら、一級のハードボイルド小説である。

その両立を果たしたポイントは以下の3つである。

 小説ではない史実による重みと描写の細かさがある

 ドキュメンタリーではない、銀四郎というキャラクターへのヒロイズムがある

 羆の恐ろしさだけに目が行きがちながら、それだけではなく六線沢に住まざるを得なかった人々の苦悩が描かれている

これらが相まって、一級の読み物と成し得ている。

つまらないサスペンスを読むよりも遥かにゾクゾクさせられ、また考えさせられる一冊。少し古い本かもしれないけれど、違和感なく読める点も見逃せない。

オススメできる一冊である。

新世界より 貴志祐介

久しぶりに、寝る間を惜しんで読み耽った。Kindleだと上中下の三巻あったが、あっという間に引き込まれ、夢中になって最後まで読んだ。

SFだしホラーだし、現実とあまりに違う世界が描写されつつも、どこかで、今のまま時間が過ぎたら、いつかこうなるのでは、と思わせるところが素晴らしい。

希望と絶望が交互にやってきて、足元が覚束ないような、フワフワした感覚の中、はやくどこかで安心したい、と思って読み進めてしまう。やめられない。同じ作者のクリムゾンの迷宮を読んだ時も同じような感覚だったと思い出した。

いつか読みたいなと思いながら、長くて敬遠していたが、やっぱり読んで良かった。

今はまだ余韻に浸っている。話の舞台が日本ということもあり、今自分が生きている世界とオーバーラップしてしまう。そして、今の社会が、いい社会なのか。。。

そんなことを、電車に乗る人が皆携帯の画面に集中しているのを見ながら、ふと思った。

チェコのナチス HHhH

HHhH

この奇妙な名前の本は、海外で大絶賛を受けた第二次大戦中のチェコを舞台にした、ナチスドイツに関する作品である。特に、ユダヤ人最終計画に大きな影響を与えたハイドリヒを中心に構成されている。

では、この本はノンフィクションのジャーナルなのか? それとも歴史物の小説なのか? この本が一体何なのか、それがこの本の一番面白いところであり、評価されているところである。

この本は、ハイドリヒとプラハの歴史に について著者が調べ、まとめ、書籍にまとめていく様子が随所に書かれている。新たな資料を見つけ興奮する様子や、他の歴史研究家や小説家がまとめた資料を批評したり、事実に対して考察したり、著者がどういう気分でナチスドイツの歴史に向き合っているのかが非常によく分かり、また小説のテンポの良さにもつながっている。

歴史は事実だ。

しかしながらその事実をどう伝えていくか、そこに書き手の力量と視点がある。この本も短い話ではない。しかしながら、きっちりと読ませてくれる。

後半の3人の闘士たちの、時代を変えようとする話は、それだけで一流のスパイ小説だ。事実だから、願うような結末ではない。それがまた、リアリティを持った力強さとして、読み手に突き付けてくる。随分と引き込まれた。

膨大な資料に裏付けられて、色々な視点で描かれる、期待以上の作品であった。また、この歴史に魅せられて没頭していく著者の姿に、どこかナチスドイツ最大の特徴である狂気を感じさせられる。


なお、作中でも明らかにされているが、著者は歴史に没頭はしていくが、ナチス信奉者ではなくむしろ、強く憤りを持っている、という点は強調しておく。


エターナルサンシャイン

なんの予備知識もなく見たので、少し面食らってしまった。そういうお話なのね。早い段階で気付いて良かった。

アカデミー賞も受賞した、という本作。確かに、少し複雑で伏線もしっかり走らせる作りは、見ている人間も頭を使いながら楽しめるようになっている。いかにも審査員が好きそうだ。

また、現実世界と脳内世界を行ったり来たりするため、映像の作り方もミュージシャンのMVを見ているような、ギミックに溢れている。少し前の映画だが、全く技術の古さを感じさせない見事な作り込みだ。

とはいえ、この映画の見所は、顔芸俳優のジムキャリーが苦悩し、悶え、真剣になる、二枚目俳優としての芝居だと感じる。ジムキャリーなの?というくらいの格好良さだ。
さらに、登場人物は多くないものの、脇を固める俳優の芝居もいい。それぞれの役がきちんと個性を出して、しっかりと印象に残している。

頭カラッポにして何も考えずに見て気分爽快!という映画ではなく、場合によっては、一度結末を見てからまた見ても、面白い映画なのだろう。

誕生日に見よう、と、借りてきてくれた奥さんに感謝。

きっと、うまくいく

長い映画は苦手だ。
レンタルする時、120分より長いものはなんとなく避けてしまう。集中力が持つか不安になるのだ。

しかしこの映画は、170分という長い時間を飽きさせることなく見させてくれる。それくらい面白い映画だ。

正しいことを言い、変人扱いされながらも、最終的には皆から愛される、みたいな話はありがちなものであるものの、この映画はそこに加えて、意外な伏線があり、それがまた、インドのお国柄に紐付いていて、エンターテインメントでもあるし、社会的な投げかけもある。そこがこの映画のいいところだ。

インド映画おなじみの歌も話の流れを切らないよう控えめに登場。なぜかちょっと安心する。

登場人物がアメリカ系だったり、インドの市井の暮らしをあまり出さなかったりと、海外に受け入られやすいように作っているのかな、と感じる部分もあったが、その分、インド映画のクセの強さは感じなかった。

映像もきれいで、最初から最後までしっかり楽しませてくれた。少し前向きに生きてみよう、そういう気持ちにしてくれる映画だ。